レコーディング、音響・PAにおいて、マイクの扱いはとても重要です。
1.マイクの性能
指向性
マイクによって「どの方向からの音をよく拾うか」という特性が異なります。
このマイク固有の音を拾う方向性を、マイクの「指向性」と言います。
マイクの指向性には下記のようなものがあります。
●無指向性(オムニ)
全方位の音をまんべんなく拾います。
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●単一指向性(カーディオイド)
マイク前方の音をよく拾い、側面の音はあまり拾わず、後方の音は全く拾いません。
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●超単一指向性(スーパーカーディオイド)
マイクのごく前方の音をよく拾い、側面の音はほとんど拾わず、ななめ後ろの音を全く拾いませんが、後方の音を少し拾います。
スーパー→ハイパー→ウルトラの順に前方の指向性が狭くなります。
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●双指向性
マイクの前方と後方の音をよく拾い、側面からの音は拾いません。
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●マイクについている指向性スイッチ
多くのマイクの指向性はマイク固有のものになりますが、一部のコンデンサーマイクは複数の指向性を切り替えられるものがあります。
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●指向性の利用
ライブではたくさんの音が鳴っているステージ上で狙った楽器の音だけを拾うため、指向性が狭いマイクが多用されます。
レコーディングではどんな音が録りたいかによって様々なマイクが使われます。
周波数特性
同じ音を拾った場合でも、マイクによって音質が異なります。
これは上記の指向性の違いに加えて、マイクによって音の各周波数の感度に違いがあるからです。
どの周波数(音の高さ)をどれだけ拾うかというマイク固有の性能を、マイクの「周波数特性」と言います。
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これはライブ用ボーカルマイクとして定番の SHURE SM58 というマイクの周波数特性グラフです。
グラフの100Hz以下がっていますが、これは100Hz以下の音はあまり拾えません、ということです。
5000Hzあたりが盛り上がっていますが、これは5000Hzあたりを多めに拾います、ということです。
つまり、このマイクは低域を拾うのには向いておらず、5000Hzあたりが強調されて集音されるであろうということがわかります。
2.マイクの種類
マイクはその構造上の分類として、おおまかに3つの種類があります。
●ダイナミックマイク
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ダイナミックマイクの特徴
・壊れにくい
・中域を中心とした
・感度が低いので大音量でも集音できるが、超低域と超高域は拾えない
・電源は必要ないので扱いやすい
・比較的安価
・ライブでよく使用される
●コンデンサーマイク
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コンデンサーマイクの特徴
・壊れやすい(湿気と衝撃に弱い)
・高域から低域までよく拾う
・感度が高いので大音量で歪む場合があり、出力が大きい
・電源(ファンタム電源、または電池)が必要
・比較的高価
・レコーディングでよく使用される
●リボンマイク
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リボンマイクの特徴
・大変壊れやすい
・「あたたかい音」等表現される、独特の音
・とても高価であることが多い
ライブハウスなどでよくお目にかかるのはダイナミックマイク、レコーディングでメインになるのはコンデンサーマイク、リボンマイクはなかなかお目にかかりません。
保管方法に関して、ダイナミックマイクは特に注意することはありませんが、コンデンサーマイクとリボンマイクは衝撃と湿度に弱いので、落とさないように注意しつつ、乾燥材などとともに保管します。
レコーディングスタジオなどでは、デシケータ等の湿度調整ができる保管庫も使用します。
3.マイクのスイッチ
マイクにはスイッチのついているものがあります。
スイッチはおおよそ下記の4種類です。
4.代表的なマイク
SHURE SM58
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ボーカルマイクの定番
ダイナミックマイク
単一指向性
SHURE SM57
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楽器用マイクの定番
ダイナミックマイク
単一指向性
NEUMANN U87ai
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レコーディング用ボーカルマイクの定番
コンデンサーマイク
指向性切り替え式
ローカットスイッチ、PADスイッチあり
AKG C451B
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金物用マイクの定番
コンデンサーマイク
単一指向性
SENNHEISER MD421
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皮物用マイクの定番
ダイナミックマイク
単一指向性
RODE NT2-A
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コンデンサーマイク
宅録にはお勧めです
5.マイクで音を拾うコツ
●マイキングはとても重要
第二回音とは何かで見ました通り、私たちが普段聞いている音の50%以上は壁からの反射音です。
楽器の音を拾うときも、マイクを部屋のどの位置の置くかによって、マイクに入ってくる音はかなり変わります。
マイキングするときに耳を使ってポジションを探す時があります。
指向性マイクで集音される音を確認する場合は、片耳をふさいで音を聞き、その場所にマイクを置いた場合の集音状態を確認します。
●マイクと音源の距離
音波は音源からの距離の二乗に反比例する形で、音源から遠くなるほど小さくなります。
つまり、マイクが音源に近ければ近いほど大きな音で集音され、音源から遠ければ遠いほど小さな音で集音されるということです。
当たり前のことのように思えますが、これはステージ上などの騒音の多い場所で、特定のマイクに目的の音だけを入れたい場合に大きな意味があります。
例えば、バンド演奏でアコースティックギターのために立てたマイクは、アコースティックギターに近ければ近いほど、また他の楽器から遠ければ遠いほど、マイク入力音の中でアコースティックギターの音が占める割合が高くなります。
このように、特定のマイクに特定の音だけを入れるようにすることを、セパレートすると言います。
ライブなどでにおいては、指向性とマイクの距離によってセパレートします。
●オンマイクの音
マイクで目標の音だけを拾う(セパレートする)ために楽器から数センチ程度の至近距離にマイクを置くことを「オンマイク」と言いますが、オンマイクの音は本来不自然な音であることを知って置くことが重要です。
通常、演奏を聴くにあたって、「スネアから5cm」や「ギターアンプのネット間近」という場所に耳を持ってくることはありえないからです。
オンマイクで集音することは、音のセパレート上は重要ですが、普段聞かないような音で集音されるということを覚えておいてください。
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楽器内蔵マイクについても同様です。
これは「アコースティックギターのボディの中」という特殊な場所の音を集音しているのです。
6.ハウリングについて
ハウリングとは、マイクから音が入り、それがスピーカーから出た後、その音をまたマイクで拾うことによって、音が音響機器を通じてループしている状態です。
ハウリングを回避するにはマイクの指向性を利用し、スピーカーからの出音がマイクに入らないようにします。
詳しくは、コラム「音楽イベント開催時に気を付けたいこと」をご覧ください。
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7.演奏時の注意点
ボーカル
●マイクの正面を口に向ける
SM58などのライブでよく使用されるマイクは単一指向性です。
ですので、音を最もよく拾うマイクの正面を口に向けて持ちます。
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●グリルを持たない
マイクの集音部分にかぶせてある金属網を「グリル」と言います。
この部分を手で覆うように持つと、周波数特性が変化する上、ハウリングしやすくなります。
●ケーブルをもって振り回さない、投げない
万が一ケーブルが抜けたり、マイクが地面に落ちたりすると、大音量が出力され、演目の邪魔になるのはもちろん、PA機器にダメージを与える場合があります。
●マイクチェックの時にマイクを叩かない
日本ではマイクをたたいて「ボンッ」という音を鳴らす方法が浸透してしまっていますが、音響機器に悪影響なのでやってはいけません。
声でチェックするか、グリルを爪でひっかいて「ガリガリ」という音を出してチェックします。
ボーカル以外の人
楽器とマイクの位置関係が重要なので、ずらさないように注意してください。
マイクが邪魔で演奏しにくい場合は、事前にエンジニアに相談しましょう。
マイクにぶつかってしまった場合や、マイクがずれていることに気付いた場合などは、すぐエンジニアに言いましょう。
8.ダイレクトボックス(DI)
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ダイレクトボックスは電子楽器の出力を電気のまま集音する機器です。
ダイレクトボックスはマイクではないのですが、音響の観点からすればマイクと同様にステージ上の楽器(機器)の出力をミキサーに入力する用途で使用するため、似ています。
用途の例
ギターやベースのピックアップの出力、キーボードの出力を直接電気的に集音する。
パソコンやDJミキサーの出力を遠くのミキサーに送るために集音する
具体的には、楽器の出力信号をPA卓等に送るのに適正な大きさに変換し、アンバランスをバランスに変換します。
電源は、電源浮揚のパッシブタイプ、9V電池またはミキサーからのファンタム電源で作動するアクティブタイプ、コンセント電源で動くタイプなどがあります。
DIを使用する利点は、スピーカーを鳴らさないので音が鳴らないということ、電気のまま集音するのでクリアに集音できるということ、等です。
特にベースはレコーディングでDIを使用する場合が多く、自分好みのDIを持っているというベーシストもいます。
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