ドラムレコーディングのコツは、各マイクの役割を考えながらマイキングすることです。
ドラムはたくさんの太鼓の集合体という特殊な楽器であり。迫力のある音像の近い音を作ろうとする場合、マルチマイクで各太鼓の音を個別に録音することが必須となります。
最終的に作りたい音像を見据え、そのために必要な素材をすべて集めるという感覚で、目的をもってマイクを設置していくことが重要です。
ドラムの録音は簡単ではないですが、昨今の配信需要などでスタジオに録音機材を持ち込んで収録に挑戦される方々も増えてきており、これからドラムの録音にチャレンジする初学者様、ミュージシャン様向けのお役に立てましたらとこの記事を書かせていただきました。
0.動画を用意しました
動画を用意しましたので、よろしければご覧ください。
各マイクにどういう音が録音されているか、音かぶりの程度、などがご理解いただけるかと思います。
動画制作にご協力いただいたのは、大阪でご活動されている桜谷ドラム教室講師、桜谷先生です。
ドラムの収録方法(1/2)-フルマイクの録り音と各マイキングの解説-
ドラムの収録方法(2/2)-SM58だけで録ってみた / 録画機材と比べてみた-
1.各マイクの目的とセッティング
レコーディングとはミックスのための素材集めと言えます。
ここでは、ロック、ポップス向けの迫力あるドラムサウンドを目指した場合の、一般的なマイキングについて説明します。
kickin 重要度:★★★
バスドラムの中にマイクを突っ込んで収録するマイクポジションをキックインと言います。
主に、バスドラムの「バチン」という高音のアタックを収録する目的でここに置きます。
1本のマイクでバスドラムを収録する場合も、ここに置くことが多いです。
他の太鼓はほとんどかぶらないため、かぶりはさほど気にする必要はありません。
kickout 重要度:★★
バスドラムの外側に置くマイクポジションをキックアウトと言います。
バスドラムの、主に外のヘッドのふくよかな低音の鳴りを収録する目的でここに置きます。
1本のマイクでバスドラムを収録する場合でも、アタックより鳴りを重視する判断においては、ここに置くことがあります。
バスドラムの外側にあるので、他の太鼓類が被ることがありますが、その場合はマイクをバスドラムのより近くに配置したり、下を向けたりして調整します。
kicksub 重要度:★
キックアウトにおいて、YAMAHA SUBKICK等の特に低音特化したマイクを置く場合、その回線をキックサブということがあります。
snareTop 重要度:★★★
スネアトップ、文字通りスネア打面側を拾うポジションです。
このポジションはハイハットの被り(ハイハットの音まで拾ってしまうこと)に注意する必要があります。
スネアはドラムのサウンドづくりの中でとても重要な上、このマイクへのハイハット被りが大きいと、後でスネアを個別に調整することができなくなります。
いったん録音してみて、このマイクに入るハイハットの音が大きいようであれば、マイクをスネアに近づける、下を向ける、ハイハットに向かないようにするなどの工夫が必要です。
かなり厳しい場合は、ドラマーと相談して、ハイハットの位置を若干ずらしてもらうというようなこともあります。
snareBottom 重要度:★
スネアボトムです。
主にスネアの裏側のスナッピーの「ジャリッ」という音を拾う目的です。
スナッピーのジャリ感はポップス・ロックのスネアサウンドには必要ですが、このマイクで拾う音をミックスで大きくしすぎると、リズムがぼやけてしまう原因になり、またスナッピーの音は他のマイクにも少しずつ入るので、重要度は高くありません。
tomH / tomL 重要度:★★
タムですが、スネアトップと同じ考え方になります。
このポジションにおいてはクラッシュシンバルが近くにあることが多く、クラッシュシンバルの被りを意識して配置する必要があります。
スネアの音が大きく入ってしまう場合は、マイクを少し下に向けるとスネア被りを回避できることがあります。
あまり被りが大きい場合は、ミックス時に編集したり、ゲートをかけたりする場合もあります。
「ポーーーン」という変な倍音が聞こえる場合は、ブースで生音を確認し、生音がおかしい場合は太鼓のチューニングが必要です。
また、あまり前のほうまでマイクを出してしまうと、ドラマーにマイクを叩かれる原因になりますので注意しましょう。
tomF 重要度:★★
スネア、タムと基本的に同じですが、フロアタムの場合はライド被りが問題になることがあります。
80Hzあたりのフロア的なローと、アタックの音がバランスよく録れるようであればOKです。
シンバルがあまりに近い場合は、ドラマーと相談して楽器の配置を再考し、被りを少なくできるように努力します。
top 重要度:★★★
トップマイクはドラム全体の音を集音するマイクであり、とても重要です。
太鼓の音は打面方向によく飛ぶので、ドラムセットの場合はバスドラム以外の音は上に向かって飛んでいきますから、トップマイクのポジションは効率的にドラムセット全体を集音することができます。
さらに多くの場合シンバルはドラムキットより上側に配置されますので、トップマイクのポジションはシンバルの音もよく拾います。
録音される音質としては、オンマイクより離れたところにありますから、自然な音が収録されます。
ジャズ的なナチュラルなドラムサウンドを目指す場合は、このマイクを基本に、他のマイクを足していくという方法をとる場合があります。
トップマイクは、その時に目指す音像、他のマイクのセッティングなどを勘案し、どのような役割を担わせるか、そのためにはどのパーツをどのくらいどのように拾わせるか、よく考えてセッティングします。
例えばロック、ポップスのように迫力のあるドラムサウンドを作る場合は、各太鼓の音は主にオンマイクで作るので、このマイクの最も重要な役割は主にシンバルの集音ということになりますから、シンバルがバランスよく拾える場所に配置するということになります。
HH 重要度:★
ハイハットの音を個別に味付け、調整するためのマイクです。
ハイハットはトップマイクの位置次第ではトップマイクに十分入っており、場合によっては必要ないマイクです。
配置スペースや被りの関係でハイハットの下から狙う場合がありますが、音質的に良い場合も悪い場合もあります。
また、ハイハットの横側は、ハイハットを閉じたときに風が吹き出ますので、原則的にマイクを置いてはいけません。
ride 重要度:★
ライドの音を個別に味付け、調整するためのマイクです。
配置スペースや被りの関係でライドの下から狙う場合がありますが、音質的に良い場合も悪い場合もあります。
シンバルのマイキングでやってはいけないのは、横からのマイキングです。
シンバルの真横からマイキングすると、シンバルが叩かれて揺れたときにシンバルの表側の音と裏側の音が交互に拾われることになってしまい、シンバルの表と裏では発生している音の位相が逆ですので、位相の問題が発生します。
front(room) 重要度:★
フロントマイクやルームマイクは、ドラムセット全体の雰囲気、部屋の空気感を集音する目的で配置します。
また、歪めたりコンプレッションしたりして、独特の味付けに使用される場合もあります。
2.ミックス
ミックスは自由です!
エンジニアによって様々なミックス方法があります。
イコライザー、ゲート、コンプレッサー、ハーモニクス、ディストーション、ディレイ、リバーブ、ピッチシフトまでを使用して、偉大なドラムサウンドは作られています。
最近では、リプレイスまたはトリガーと言われる、収録した音声をサンプル音に置き換える手法まで広く使用されています。
ミックスを学ぶにあたって、各エフェクトの効果検証、感覚の習得は欠かせません。
最近ではYOUTUBE動画などもたくさんありますので、様々な方法で情報を取得し、また実験と研究を繰り返し、ノウハウの習得を目指しましょう。
ここでは、初学者、ミュージシャンの方向けに、心構えや簡単なTipsを紹介します。
リファレンスを聴く
最初のうちはリファレンス(見本となるサウンド)を用意して、聞き比べながら作業すると、迷子になることを防げてよいです。
リファレンス音源はDAWに読み込み、ミュートしておくと、現在作っているミックスと同じ環境で聞き比べることができます。
モニタースピーカー、ヘッドフォンなどはたくさん販売されていますが、全く色付されない再生環境はありません。
ミックスすべきはデバイス内のデータであって、モニター機器はデータが今どんな状態にあるかを観察するための表現装置であることを忘れてはいけません。
リファレンスを聴きながら作業すると、その環境の特性を把握できるので、その時使用しているモニター特性に左右されずに作業することができます。
また、長時間作業していると、良いのか悪いのかわからなくなってくることもありますが、そのようなときにリファレンスを聴くと、リファレンスから相対的に観察でき、今作業しているデータがどのような状態にあるかを判断できます。
プリセットを試してみる
エフェクトにはプリセットと言われるメーカー設定があらかじめ保存してあり、呼び出すことができる場合があります。
プリセットは意外とよくできている場合もあり、プリセットを試してイメージに近いようであれば、そこから微調整を加えていくという方法はお勧めです。
また、それでよいサウンドが得られた場合、そのプリセットが何をしているか研究することによって、エフェクトの根本的理解も深まります。
注意点は、コンプなどの入力レベルによって効きが左右されるエフェクトは、プリセットを呼び出した後に入力レベルだけは調整しないと、まともな効果が得られないことです。
エフェクトをオフにしてみる
ミックスは判断の連続ですが、判断を間違えると改良ではなく改悪になってしまいます。
何か一つ処理をしたら、その処理をオフにして「確実に良くなっている」ことを確認してください。
そうして一つ一つ、確実に良い判断を積み重ねていきます。
自分を信じる
「このままでいいと思うのだが、大丈夫だろうか」
「いい音だと思うけど、コンプかけすぎだろうか」
「こんなにブーストして大丈夫だろうか」
と様々な疑念がミックス中に発生すると思われますが、自分が良いと思った音を信じることしかできません。
何もしないトラックには何もしない、とことんエフェクト処理をするトラックには処理をする、というその判断こそがミックスです。
エフェクトの設定ではなく、あくまでも「出音」にフォーカスし、判断を積み重ねていくと、きっと良いミックスができます。
3.ドラム録音に使用されるマイク
スネア
SHURE SM57
トップにもボトムにも。
定番です。元気な音が取れます。
価格も安いので、初心者にもおすすめです。
audio-technica ATM23
トップにもボトムにも。
超指向性なので、被りに強いです。
また、小型でセッティングしやすいです。
AKG C451B
トップにもボトムにも。
コンデンサーマイクなので、ハイまでハリのある音で録れます。
キック
キックやフロアタムには100Hz以下が集音できる、低音用マイクを使用します。
audio-technica ATM25
インにもアウトにも。
低音までしっかり拾えます。
また小型でセッティングしやすいです。
Sennheiser MD421
インにもアウトにも。
往年の定番マイクです。
価格が高いのと、サイズが大きのが、少々使いにくいです。
SHURE BETA91A
キックイン用。
バウンダリー・コンデンサーマイクです。
昨今のロック/メタル系の「あのアタック音」が拾えます。
YAMAHA SUBKICK
キックアウト用。
ウーハースピーカユニットをマイクにしてしまった特殊なマイクです。
地鳴りのような低音が拾えます。
SHURE SM58
キックイン用。
独特のパンチのある音が拾えて、結構良いです。
タム
Sennheiser MD421
タムにもフロアにも。
フロアタムに使用してもしっかりローが拾えます。
audio-technica ATM25
タムにもフロアにも。
18インチフロアなどにもバッチリな低音が拾えます。
audio-technica ATM23
14インチ程度までのタムタム用。
超指向性で被りに強く、小型でセッティングも楽。
SM57
14インチ程度までのタムタム用。
パンチのある感じで拾えますが、フロアタムには若干低音が足りません。
また、被りにも比較的弱いです。
トップマイク・シンバル
トップマイク等のシンバル集音が重要なマイクには、極力コンデンサーマイクを使用したほうが良いです。
Neumann KM184
シンバルまでうまく拾ってくれます。
AKG C451B
少しハイに特徴があるように思いますが、きれいに録れます。
AKG C414XLII
C414は元気な音である、という感想です。
SHURE SM81
シンバルの良さを引き出してくれると思います。